杉浦日向子先生が下咽頭がんために、2005年7月22日に亡くなられました。
享年・46歳。
若すぎる・・・これからのご活躍に非常に期待してただけに、この訃報はあまりにも悔しい。
「
1年8カ月前から闘病生活を」
ということから、お江戸でござるの降板は、体調面からの影響によるものだったのでしょう。
(それ以前からも、体調不良についての話は聞いておりました)
番組内では笑顔でゆったり丁寧とした解説、いつも通りの解説を終えた後で笑顔を浮かべたままの降板宣言だっただけに、当初はたいしたことは無いとばかりに思っておりましたが・・・まさかそれほどまでに重いものであったとはうかつにも気づかずに、杉浦先生の再登板を願い続けておりました。
上原半兵衛道場は設立時こそ違えども、江戸研究に専念するようになってからは、
ひたすら杉浦日向子先生でございました。
毎週木曜日20時からの
「コメディ お江戸でござる」における杉浦日向子先生のおもしろ江戸話。
その懇切丁寧な解説と、周囲の人間すら思わず江戸を感じさせてしまうかのような独特の雰囲気に、当時江戸を学び始めたばかりの私はすっかり虜。
以来現在にいたるまでずっと杉浦先生を追い続けてきました。
私が初めて杉浦日向子先生に出会ったのは、江戸を本格的に学び始める前に図書館で借りた一冊の本「
杉浦日向子の江戸塾」でした。
当時はそれほど江戸時代というものに対して興味がなかったためか、その当時は流し読みをして、すぐに返却してしまったのを今でも覚えております。
そしてその後、本格的に江戸にのめり込むようになったころに出会ったのが、「
お江戸でござる」でした。
今までの時代劇にはないような、コメディタッチのお笑いお芝居。
そしてそれ以上に衝撃的だったのが、お芝居後に行われる、『
杉浦日向子のおもしろ江戸話』。
お芝居内容を振り返り、中身の良い点・悪い点を指摘した上で、お芝居内容に関連する江戸の話題を、杉浦先生が独特のゆったりとした懇切丁寧に解説してくれる。
このわずか十数分の時間が大好きで大好きで、最初はお芝居が目当てで見ていた番組も、知らず知らずに杉浦先生の解説目当てに見ているようになっておりました。
このようにして杉浦先生に興味を覚えてからは、先生の著書を片っ端から読みまくりました。
日本漫画家協会賞優秀賞を得た「
合葬」や文芸春秋漫画賞「風流江戸雀」を初め、怖さよりも摩訶不思議な世界というものについ引き込まれてしまう「
百物語」。
とんでもない道場主の日常を面白おかしく描いた「
とんでもねえ野郎」。
そして数ある魅力的な作品の中でも、杉浦日向子ファンの中でダントツの人気を誇る葛飾北斎・お栄・善次郎がおりなす江戸くささ満載の「
百日紅」。
現代とはかなり異なる不思議な感覚を持たせてくれる「江戸」の魅力を、素晴らしいほどに感じさせてくれる江戸漫画達。
漫画以外にも、江戸を題材にしたエッセー「
大江戸観光」や「
一日江戸人」を初め、蕎麦好きには堪らない一冊でもある「
ソバ屋へ憩う」、旨いものという題材で厳選したと思われる「
ごくらくちんみ」「
4時のおやつ」など、お酒大好き杉浦先生の厳しい視点から描かれた、様々な書籍で読者を楽しませてくれました。
江戸を学ぶきっかけこそ違いましたが、私が江戸好きになるまでの過程において、欠かすことのできない杉浦日向子先生の存在。
おもしろ江戸話、その著書によって、何度も何度も今まで自分が思っていた江戸世界観を覆させられる度に、なぜかいつも嬉しさを覚えていたような気がします。
「江戸時代って士農工商の身分制度がきっちりとしていて、面白みのない時代」
「質素倹約を元にした慎ましい生活」
「飢饉や百姓一揆が多発した安穏のした時代」
というイメージを学校の歴史の授業では感じておりました。
それらをモノの見事に一掃することができたのも、杉浦先生によるものが非常に大きいと思われます。
今後も、これらの悪いイメージが先行しがちの江戸時代を良い意味で覆してくれる作品等を期待していただけに、今回の訃報は本当に残念で仕方ありません。
著書の「
江戸アルキ帖」の中で、杉浦先生は以下の様におっしゃっておられます。
「検定三級に、やっと合格したので、二十一時まで滞在できるようになた。うれしい。
二級などは、しかるべき学術論文をものにした学者、研究者ばかりだし、一級ともなれば叙勲ものの老人にでもならなけりゃ、手にすることはできそうにない。」
(『江戸アルキ帖』より 、杉浦日向子、新潮社、H1.4.25、P44)
これをお書きなられたのが十数年前の事です。
当然のごとく二級はもちろんのこと、一級ですらも、杉浦先生はすでにお持ちであったのでしょう。
四級は日没、三級は二十一時までということですから、その詳細はわかりませんが、二級は宿泊、一級ともなれば長期滞在ぐらいは許されていたはず。
隠居生活をされてからは、さぞや何度も江戸への旅を楽しんでおられたのでしょうか?
船が大好きな先生のことですから、猪牙などに揺られながら、大好きなお酒を片手にゆったり江戸観光だったかもしれませんね。
そして、段位を取得されて、いつでも自由に、好きなだけ江戸に滞在できるようになって・・・今頃はそれこそ北斎先生のところにお邪魔していたり。
ついでだからやってけと、北斎先生の引っ越しの手伝いにかり出されているかも知れません。
でも杉浦先生なら、お栄ちゃんと馬があったりして、一緒になって善次郎の尻を叩いて引っ越し作業をさせているかも。
北斎先生は邪魔だからどっかいってろ・・・みたいにね。
都八造師匠や国直の兄さん、多吉郎あたりも呼び寄せては、わいわいがやがや言いながら、やっているんじゃないのかなぁ。
大好きな江戸へ、行ってらっしゃい杉浦先生。
好きなだけお江戸を堪能し、本当の意味での江戸っ子になっちゃって下さい!
そして何かの間違いで、もし私に江戸免許が降りた暁には、ぜひお江戸の町を紹介して欲しいです。
それまでには先生の大好きなお酒とお蕎麦の味がわかるよう、私の方も鍛えておきますので。
8年間という短い時間でしたが、杉浦先生からは様々なことを学ぶことができ、心から感謝しております。
本当にお疲れ様でした。
ありがとうございました。
そして、行ってらっしゃい、お江戸の町へ。
ご冥福をお祈りいたします。
上原半兵衛道場 一同
門弟・長尾武之介