◆お芝居情報◆

【放送日】2003/11/06   【お芝居】「藤岡屋日記」より 律儀者はもうたくさん

配役 出演者名
盗人 金太 桜 金造
高野家当主 高野織部 前田 吟
家老 田中三太夫 魁 三太郎
女房 お重 重田千穂子
奉公人 お冬 坂本冬美
居酒屋主人 風松 風間杜夫
奥方 お由紀 由紀さおり
お玉 宮崎瑤希
高野家の息子 陽太 篠田拓馬
お江戸でござる オリジナルソング
曲名待ったなしだよ人生は
作詞多野 亮
作曲四方章人
坂本冬美


●杉浦日向子のおもしろ講座●
江戸風俗研究家 杉浦日向子
補足 長尾武之介



◆本日の良かった点◆

●実在した安中屋のモデルと実在した話
今回のお芝居、実は実在の事件がネタになっております。
それから、安中屋さんも実在の人物がモデルになっています。
その安中屋さんのモデルになった人がこの事件を記録したんです。
藤岡屋由蔵(ふじおかやよしぞう)さんという方で、藤岡屋日記という大変膨大な日記が今回のネタの一部になっております。


◆本日の間違い点◆

●『お重・風松 食い倒れ心中』を行う場所が大川の百本杭
大川の百本杭は、歌舞伎などでもたびたび出てくる舞台ですね。
百本杭とは名前の通り、護岸の為に川の中に無数の杭が打ち込まれております。
ですので、いろんな漂流物がひっかかる所でして・・・
たとえば町に出てすぐに誘惑に引っかかってしまう人のことを「百本杭」といったり、すごくちびた下駄をはいていたりすると「百本杭の下駄」って言ったりするくらいいろいろ引っかかる場所で飛び込む人はいないんですよね。(^^;
飛び込んでも死ねない・・・という。(^^;


●大江戸藤岡屋日記事情●

■藤岡屋由蔵と藤岡屋日記■
安政二年(1855) 神田旅篭一丁目付近図,藤岡屋
「安政二年(1855) 神田旅篭一丁目付近図」
・・・中川屋の軒先となるとココ?
・・・後に持った由蔵の店舗
この『藤岡屋日記』を書いた藤岡屋由蔵(ふじおかやよしぞう)は、本名・須藤由蔵(すどうよしぞう)といいます。
上州の藤岡出身だったことから、藤岡屋と呼ばれていたそうです。
本業は古本屋を営んでおり、外神田の御成道の入り口の広場にある中川屋という足袋屋さんの軒先を借りておりました。
路上に筵(むしろ)をしき、商品である古ぼけた本を並べて商いをしていたそうです。
しかし、古本売買の商いにはあまり積極的ではなかったようで・・・
毎日、筵の上に素麺箱を置き、それを机代わりにして、なにやら書き物ばかりをしていたそうです。

一日中外にいるわけですから、当然のごとく日に焼けてしまい、肌の色などは渋紙色。
風が吹いたりすると砂埃などが宙を舞って、砂まみれになってしまうそうなのですが、本人はそんなことをまったく気にもせずにひたすら終日何かを書き留めておりました。
そんな彼のことを、人呼んで「お記録本屋」と世間では言っていたそうです。
(または本屋の由蔵ということで「本由(ほんよし)とも呼ばれておりました。)

このお記録本屋こと藤岡屋由蔵が「日記」を題しておりましたものを、外部の者が藤岡屋日記と呼んでいたことにより、その名が付いたそうです。
その藤岡屋日記ですが、日記と言いつつも、著者の藤岡屋由蔵の行動や感想などが記述された日記ではありません
「某様がこういう地位についた」
といった政治にまつわる政権交代や人事についてのことや
「何月何日 何処何処で火災があった。火災の出元は何処何処で・・・」
「何処何処に住む某の娘が狸を生んだ」
などといった事件や噂話を、自分の私情を交えずに客観的にノンフィクションとして記録しております。

こういった事件の情報や噂話などを藤岡屋由蔵自身が調べ歩いて記述していたのか?というとそうではありません。
情報の提供者から情報を買うという行為を行って、情報を集めておりました。
お芝居の中では盗人・金太の持ってきた情報を1分で・・・という事になっておりましたが、実際は、1つのネタにつき24文~32文で購入し、96文にて情報を売っておりました。
江戸時代という現代よりも200年も昔に、すでに
「情報を売買する」
ということが行われていたということです。
( Σ(゚Д゚) オドロキの事実!!)

この藤岡屋由蔵が生きていた時代は、天保の改革、天変地異、黒船来航など時代が激動している頃でありました。
毎日様々な情報が行き交い、その情報や噂話などにより、人々が右往左往する。
その為、こういった情報が商品としての価値を見いだせたのでしょうね。
■実際にあった「床下に一万両」話■
今回のお芝居は「旗本・高野織部屋敷の床下に一万両が眠っている」というお話しでした。
これは、実際江戸時代におきた話を元ネタにしております。
その話は、藤岡屋日記上に「律儀者、泥棒になること」という題目にて記述されております。
「江戸巷談藤岡屋ばなし」(ちくま文芸文庫)に掲載してある内容を引用いたします。
(武之介が意訳してあります)
『文化元年(1804)十二月、赤坂の酒屋の亭主某を召し捕った次第。
この某、幼年より年季奉公をし、無事年期が明け、家付きの縁談をして、ついに自前の酒屋を経営することになりました。
しかしその家は借金だらけで火の車。数年がんばって働いてみたものの一向に良くならない。
万策尽きてしまい、借金の話であたりを駆け回るが、どこも同じようで相手にしてくれなかったそうです。
その時、
「小川町の浅野織部様は大金持ちであり、御居間の縁の下に、石の唐弼(からびつ)にいれて一万両を埋めてある」
という噂を聞きます。
どうしてもその一万両のことが頭から離れなずに、何度もつけねらった末、浅野邸へ忍び込んでしまいました。
何度も道具を携えては忍び込んでいたためについに見つかってしまい、傷を負わされるものの、からくもその場からは逃げることに成功します。
屋敷の方では隠密に盗賊改めに捜査を依頼し、傷人という見つかりやすく、捜査の末、御用となってしまいました。
長年不埒なことは考えずに過ごしてきた身が、金に差し支えたことで噂話が毒となり、もってのほかの大盗賊の真似をして、召し捕りになってしまったと、後悔混じりに懺悔したそうです。』

上の内容は要約しておりますが、上記の様な噂話が藤岡屋日記には多々記述されております。
さすがに全部を読んでいくとなると、それなりに大変ですね。(^^;
ぱっと題目を見て、面白そうなものをまず読んでみる・・・なんて読み方がオススメかもしれません。
また、藤岡屋日記は時代小説を書く際の元ネタとしてもかなり使われているらしく、「あれ?このネタはどこかで読んだな?」と思うことがたびたびあります。
そんな元ネタ探しなんてことも面白いかと思いますよ。
(興味のある方には、ご紹介した文庫版の「藤岡屋ばなし」をオススメいたします。原本の方は、読むだけでもかなり大変ですからね)

ちょっと面白そうなネタをいくつか紹介いたしますね。

●遠島おめでとうございます(藤岡屋ばなし P124)
武家のご隠居が博打の咎で捕まり、親子共々追放という処分を言い渡されることになりました。
評定所での採決となるため、幼い子供にも正装をさせて出頭します。
普段とは違う改まった格好をさせられたので、何かの祝い事だと思ったのでしょう。
奉行の前で
「おめでとうございます。」
言ったそうです。
この話を聞いて不憫に思った御上は、哀れだということで早速召し返し、御家人としたそうです。

●ちょっと死んでみましょう(藤岡屋ばなし P295)
浅草大川橋の上で町人体の男が腰の矢立てを取り出した。
なにやら書き付けしたものを橋の欄干に結びつけた後、いきなり川へ飛び込んで死んでしまったそうです。
後でその書き付けを見たところ、その中には
「ちょっと死んでみましょう」
とだけ書いてあったとか。
■江戸文献上にみられる藤岡屋由蔵■
今を持ってしても非常に奇妙なお人に見えますが、江戸当時の人々にとっても奇妙に見えたらしく、当時の文献にも藤岡屋由蔵についての記述がのっておりました。
「絵本風俗往来」という四季折々の江戸の風俗について記述されている本があります。
この中にて「お記録本屋」として紹介されております。
(この本は明治時代に刊行された本であるため『江戸文献』とみなすのはおかしいことですが、これを書いた菊池貴一郎こと四代広重は嘉永2年(1849)の生まれであり、騒然とした幕末をその目と体で体感してきた人物であったため、あえて江戸文献と称させて頂きました。)

「絵本風俗往来」の中では藤岡屋由蔵は下記の様に紹介されておりました。
お記録本屋
「お記録本屋」
絵本風俗往来』より
(菊池貴一郎、青蛙房、S50/9/25、P355)
●営業場所について●
「外神田御成道の入り口なる広場に筵(むしろ)を敷きて、古書籍を連ねて商う本屋の老爺あり」
→当初は広場に露店を出していただけでしたが、後に中川屋の軒先を借りるようになり、ついには同所に一戸の店を構えるようになったそうです。つまり店をもてるほどの売り上げがあったということなのでしょうか?

●作業風景について●
「素麺箱を横におきて机と成し、瀬戸焼の墨壺に禿筆(きれふで)を染(そめ)て・・・(略)・・・終日何か認(したた)めてりしかば人呼びてお記録本屋といいなりし」
朝起きると寝るまで安座して、書き続けたそうです。そんな姿を見て、人はみな「お記録本屋」と呼んだのでしょうね。
→お酒が入った徳利を脇に置いてちびちび飲み、眠くなると日に何度も三里へ灸えながら書き続けたとか。はぁ~・・・(゚Д゚)
(三里・・・膝関節の皿の下あたり)

「砂塵(さじん)を吹き上げて煙りの如くなるに頓着(とんちゃく)なく悠然として筆を休めざるは雨雪の日を除くの外」
→風が吹くと、今回のお芝居のようにばぁっと砂埃が舞って、砂まみれになるんだそうです。たぶん商品である古本のことなんて眼中に無かったのでしょう。(^^;

●外見について●
「年中日光に照り付けられしかば顔色渋紙の如く、頭髪ボウボウたりしを手ぬぐいにて包みたり」
→夏場の暑い時や、冬場の寒い時なども出続けた結果・・・そうなっちゃったみたいです。(^^;

●営業について●
「怪しむべきは、身柄良き武家の来たりて破筵(やれむしろ)の片ヘに着座して、何か談話して余念なき様を見しこと数度あり」
→身柄良き武家というのは、各藩の留守居役らしいです。留守居役は江戸で集めた情報を国元に送るのが役目であるため、情報通である藤岡屋由蔵より情報を入手していたのでしょう。
→藤岡屋由蔵の情報ネットワークはかなりのものだったらしく、幕閣にて午前中におきた出来事などは当日の夕方には既に記録されていたとか。愕くべき情報収集力ですね。
→しかし周りの人間からは甚だ不思議に思えたでしょうね。一介の老爺にたびたび身なりの良い武家が話しかけてくるんですから。

「古本を求めんとて値を問えば、甚だ不廉(ふれん)にして一銭もひくことなく、随分頑固なる振る舞いあり」
→たぶん「人が大事な記録をしている時に話しかけるなよ!」なんて思っていたのでしょうね。商売っ気がないというか・・・でも、頓着しない割には値引きをしてくれないみたいですよ。(>o<)/


■上原漫画 「内職?」■
上原漫画
上原漫画
上原漫画
上原漫画
上原漫画
自分の主観を記述せずにただ客観的に噂話などを記述し続けた「藤岡屋日記」ですが、その中には数少ない自身に関すること記述があります。
文久元年(1851)6月20に発売された「芸園通家 三世相時に合性」という番付に藤岡屋由蔵が選ばれて掲載されたので、それを祝して友人からの祝賀の歌を寄せた部分があるんですよ。
この番付、どうやら奇人番付らしいのですが、奇人といっても変という意味より優れた人という意味になります。
(幕末の江戸において、筆記に関する三人のうちの一人として称されたようです。)
珍しく自分の事を記述したくらいですから、よほど嬉しかったのでしょう。(^o^)
頑固爺という印象がありましたけれども、こんなところはかわいらしい性格の持ち主ですね。

また、当時の川柳にも藤岡屋由蔵のことが歌われております。
「本由は 人の噂で 飯を食い」
この川柳は、全国に響き渡るくらいの有名な川柳だったそうです。
実に数十年間にも渡る路上での記録作業が実を結んだ結果・・・と言えますね。(^o^)

現代から200年以上も昔に、すでに情報の有用性に着目し、「商品」として売買するまでにいたった江戸の情報屋こと藤岡屋由蔵。
江戸の情報というと、「読売」等に注目してしまいがちでしたが、この藤岡屋日記に出会ったことにより
「情報という見えない形のものを売る」
という現代では当たり前のことが、既に江戸時代においても行われていたという事実を知らされて、かなり驚かされました。
もしこの藤岡屋由蔵が現代にいたら、さぞや情報量の膨大さに目がくらむことでしょうね。
それと同時に嬉々として、情報の管理をし始めていたかも。(^^


●出演者への質問●

【質問:】FAXや本やINTERNETやらいろいろありますが、どういうものに興味がありますか?

●前田さん●
余はもう本じゃな。(笑)
地図とか・・・昔からですけど、時刻表とかが大好きでしてね。
あれをよく見て、架空に北海道のどこそこへいくのには、どうやってどうやっていくのか?というのが一日見ていても飽きないですね。
●坂本さん●
私は温泉が好きなので・・・温泉の雑誌などを買いあさって。
どこの宿がいいだの、どこのお食事がおいしいのだの・・・をして休日は過ごしておりました。
●重田さん●
私はね、やっぱり芝居を見に行く情報を・・・雑誌が出来てから便利になりましたしね。
でももうそれでも分からない場合は人に聞く!
電話して、見た人に。
「あれはどうか?」って。
つまんないっていったら、やっぱいかないって。
●風間さん●
僕はですね、いろんな調べたいことがあると・・・人に任せます。(笑)
インターネットなんてパソコンいじれませんし。
ただまぁ新聞は毎日読むようにしております。
新聞を読んで牛乳さえ飲んでいれば・・・生きていけます。(笑)
●笹野さん●
私はですね、風間さんとは違いまして、こう見えてもパソコン使えます。
趣味が、インターネットでショッピングするのが趣味でして。
【ALL:】おおっ!!!
この間、蚊帳を買いましてね。
●杉浦先生●
拓磨くんと同じで、切り抜きはしないのですが、天気予報が大好きで。
朝一番の4:30に始まるの天気予報は毎日見ているんです。
出不精なんでどこにもでかけないので、自分には関係のないことなんですけれども・・・凄く天気には詳しいんです。(笑)
●野川さん●
私はね、興味があるところはやはり、夜遅くまでお店を開いているお食事処みたいなところを探すことですね。
なかなか遅くまで開いているところがないでしょう?
まぁ情報誌やグルメの本がいっぱいありますし、お友達の間とでもメールとかでね。
●篠田くん●
わしはのぅ~。(笑)
趣味でね。
新聞の天気とかをノートに貼り付けたりして、次の日の天気予報などをするのが好きなんですよ。
【金:】気象予報士とかにでもなるのかな?(^o^)
●宮崎ちゃん●
最近、学校で国語辞典の使い方を教えてもらって・・・分からない漢字とかが出たら、国語辞典で調べるのが好きです。
●魁さん●
おとっつぁんなぁ、天気予報じゃないんだけど、女房の機嫌が分かる奴。(笑)
これが欲しいね、情報が。
●金造さん●
確かにいろんな情報が流れておりますけど、間違った情報も流れておりますね。
がせネタって奴が。
あとね、自分の知りたい情報が案外手に入らない。
私が本当に知りたい情報っていうのがね、地球上からどうしたら戦争がなくなるのか?!
どうしたら世界中の人々が幸せに暮らせるのか?!という情報をお持ちの方がいらしたら、ぜひ私の方までご連絡下さい。
またお会いしましょう!(^o^)/~~

■参考文献■

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